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2013年7月29日 (月)

彼らの敵(7/25)マチネ

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駒場アゴラで瀬戸山美咲率いるミナモザ最新作「彼らの敵」を観た。

****演劇サイトより*****

今から22年前、僕はインダス川で誘拐された。
44日間の監禁生活。砂と水しかない場所。あいつは昨日殺された。僕は気が狂いそうだった。だからなるべく小さなことを考えた。おばあちゃんのこと、大学の履修登録のこと、松屋の牛丼のこと。そうしている限り、僕は僕のままでいられた。

44日後、僕は帰国した。僕はいつの間にか有名人だ。日本中からたくさんの手紙が届いた。太陽にかざせば「死ね」という字が浮かび上がって来るファンレターだ。パパラッチたちは今日もアパートの前にいる。

それからいくらか時間が経った。
「銃口」を向け続けられた僕は、ある日「銃」を手に入れた。
僕は、引き金を引くことにした。

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1991年3月、パキスタンのインダス川で川下りをしていた日本人大学生3人が
強盗団に誘拐される事件が起きました。
3人のうち1人は伝達係として解放されましたが、残りの2人は44日間、監禁されました。
2人のうちのひとりである服部貴康さんは、帰国後、週刊誌のカメラマンに追われ、
激しいバッシングにさらされ、苦悩する日々を送ることとなります。
しかし、大学卒業後に彼が選んだ道はまさにその「週刊誌カメラマン」でした。
これは、「私」と「彼ら」の中にある「敵」をめぐる物語です。

【服部貴康プロフィール】
1970年生まれ。愛知県出身。週刊誌専属カメラマンを経て、フリー。「人」と「土地」との関係をテーマに紀行、音楽、舞台などさまざまなフィールドで撮影をおこなう。2001年、『ただのいぬ。』(PIE BOOKS&角川文庫)を発表。2005年に世田谷区でおこなった「ただのいぬ。展」は入場者数5000人を数え、大きな反響を呼んだ。2009年には視覚障害者と写真をテーマにした「ふれる写真展」を企画・ディレクションした。国内外で写真展、ワークショップ、講演など多数。 

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福島第一原発事故後、その事態の大きさにどのように扱うべきかを考慮する演劇人が多くいた中で、福島の状況を直接的に作品として取り扱いー11年9月に上演された「ホットパーティクル」という芝居ではセミドキュメント手法を用い、実際に事故直後(翌月4月)に立ち入り禁止区域ギリギリをゴール地点と定め友人と福島を目指した作者の実体験が描かれているー直接的にいち早く反応した演劇人瀬戸山美咲が今日の日本社会を見事に浮かび上がらせた秀作「彼らの敵」(イプセンが「民衆の敵」で現代社会の危うさを描いたように)を上演。

人生のターニングポイントについての雑談の中でミナモザの舞台写真を撮り続けている写真家服部貴康氏が漏らした一言「誘拐かな」。。。その時はその内情を深く知る由もなかったであろうが、瀬戸山氏はすぐさま「芝居にさせてください」と頼んだと言う。

この直感が、最終的にここまで大きな成果を生むとは、本人達も気づいてはいなかったかもしれない。

***ネタバレ注意****

22年前に世間を騒がせた事件ー早稲田大学探検部 パキスタンで強盗団に誘拐され44日間の監禁後、解放されるーの当事者であった服部氏(劇中では坂本となっている)が一夜にして日本社会の“敵”となってしまった実体験ー帰国後、当人のもとには非難の手紙や電話が殺到したーとともに、一方では作り上げられたスケープゴートの側面があったことー現地取材のレポート記事として事件をとりあげた週刊文春だったが、その後本人たちの弁によると(希望的?)フィクションの部分が多かったことが判明ー、さらにはこの体験を経た服部氏が選んだその後のキャリア選択、彼が当事件を通して問い続けたメディアのあり方、世の中の仕組み・社会の現実といったことが多角的にもりこまれている。

誰かに起こった特異な出来事ではなく(実際、彼らも一介の大学生だったわけで)、実のところ日本社会に属している国民であればだれの身にも起こりうる出来事である、そしてそんな(理不尽な)世の中こそが現実なのだ、ということがきっちりと盛り込まれている。


終演後のポストパフォーマンスで服部氏の人生のどこまでを切り取るのが効果的なのか、ー戯曲のその後として服部氏は保健所で生死の狭間にいる犬たちを撮影した写真展で注目される(余談だが、この運が大きく左右する生死の狭間にいる犬たちをパキスタンで明日の運命もわからぬまま拘束されていた自分の姿に重ねたこともあると語っていたらしい)ーと思いめぐらしたと作者が語っていたが、今回のこの演出・選択はまさに正しかったと思う。

劇作家、坂手洋二氏が帰国後の三者会談ー早稲田の学生二人、パキスタン大使館の職員、週刊文春の担当編集と記事を執筆したフリーライターーのシーンが秀逸と褒めていたが、確かにこのシーンはそれぞれの思惑と困惑が交差して見応え十分。





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