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2012年10月 4日 (木)

リチャード三世(10/3)

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「悪人を成すのは Nature or Nurture?!」
新国立劇場で鵜山仁演出「リチャード三世」を観る。
近年の演劇界である意味「事件」となった同劇場の大ヒット作、「ヘンリー六世」三部作一挙上演。
9時間というボリュームと相まって観た人々に強烈な印象を残した作品だけに、三年前の上演作品とは思えないほどいまだその興奮の熱が冷めてない中でのその三部作に続く作品(時系列としてはヘンリー六世の直後の出来事を描いたのが今作)の上演ということになった。
あの興奮が戻ってくる!という気持ちで出向いた人も多かったはず。そんな感傷的なファンを良い意味で裏切るような装いも新たにした今舞台。前作からの流れを継いだ続編を期待、予想していた人たちにあらためて「リチャード三世」がどんな芝居であるのかを問いかけた鵜山氏の意欲作。
****ネタバレ注意*****
キャストが重なるところ(実際前作からの生き残りの役もあるので)で継続性は出しているものの、演出面はがらりと様変わりをし、舞台セットもかなり抽象的なものにして、英国歴史劇という殻を脱ぎ捨てている。
舞台の大まかな構造(土台デザイン)は前作にならっているのだが、その舞台の表面を赤砂が覆い、ところどころにはクレーター、遠い背面には太陽が赤々と燃え、まるで未来時空を連想させる火星の上での出来事のようでもあり、見ようによっては太古を想起させる女性の子宮の中でのお話のようにも思える。。。つまり「どこのいつ」を限定させない、いつの世でも起こりうる悲劇の結末という劇に仕立て上げている。その意図にあわせてなのか、衣装も中世イングランドからぐっと現代に近づいている。
ーこの大胆な舞台装置の他にも、今回は大掛かりな映像効果もあり、この抽象的な視覚効果をそれぞれに解釈するところからこの舞台の楽しみが始まる。ー
前作の三部作が薔薇戦争の動乱をその時代に生きた多くの王侯貴族、武将たちを会して描いた群像歴史劇であったのに対し、今回はその争乱の落とし子、心身ともに奇形のリチャード三世を通して描く人類の愚かさを諭した芝居ということで、その演技・演出スタイルは変わってくるのは必然。前回、めくるめく早さで王冠争奪戦が展開され、ほとんど潤色部分はなかったが、今回はリチャードその人に近づくために、様々な回りの部分で大胆な装飾(脚色)ーティム・バートンの映画に出てくるようなゴスメイクのマーガレット(中嶋朋子)、カリカチュア化されたパペットで表現された子どもたち(王子・王女)、故ヘンリー六世と次代の新王リッチモンド(後のヘンリー7世)の重複キャスト(浦井健司)などーがなされている。
それら全ては、三部作から一息いれて、新たな独立した最終章としてこの芝居を観るための工夫と思われる。
とは言え、さらなる最終目的としてはこの三部作+リチャード三世が結局のところ大きな時代の流れの中でのひとつの輪として捉えられることが最大の狙いであることは明白で、最後まで見終わったところで初めて、強欲さ、単純さ、愚かさを持つ人間の大きなものに巻き込まれた時の微力さを、この4作品全てを観たあとで実感するのである。
その意味で、今回の「リチャード三世」では従来の極悪非道の大悪党像とはちがった勘違い野郎リチャード三世を作り上げている。
シェイクスピア劇の中でも上演が多く(日本では市村正親、仲代達矢、藤木孝、山崎力らがアクの強い異端児を演じている)、多くの映画にも脚色されている(アル・パチーノ、イアン・マッケランetc..)リチャード三世。その多くが、彼の強烈な負の源は奇形に生まれたコンプレックス、さらには実の母からも疎まれた生い立ちから来ているーNurtureーと解釈、その悪には原因があるとしているのだが、今回、岡本健一演じるところのリチャード三世はそのひねくれたコンプレックス部分が希薄だ(彼の繊細な容姿によるところもあるのかもしれないが)。それよりも彼には争乱の時代に生まれ落ち、幾多の裏切りを日々目にしてきた末っ子が元来持っていたその性質ーNatureー、その単純で残虐な性質を最大限に活かすことができる情況下に出くわしてしまったことで道を大幅に誤った悲劇として感じられているらしい。
実際、演劇誌シアターガイドのインタビューで岡本氏が「(リチャードは)結構ショボイ男なんですよ。彼の脆さを、毎日すごく感じているんです。」と役について語っている。
その性質ゆえに悪事に心咎めない主人公が最後に自分自身を振り返り問いかける「なにを恐れる?おれ自身をか?。。。。おれは悪党だ。いや、嘘をつけ、おれは悪党ではない。」そして、自らを見失った彼が最後自身に返り、本心をさらけ出して「馬を!馬をよこせ!代わりにわが王国をくれてやる!」と叫ぶのだ。
他には、今回も中嶋朋子のマーガレット、エドワード4四世(そしてプリンスたちのパペット遣い)の今井朋彦がともに圧巻の存在感を示していた。

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コメント

こんにちは。

記事冒頭部分で2箇所、「ヘンリー六世」が「リチャード六世」となっています。

気になったので連絡させていただきました。

投稿: johnny | 2012年10月 5日 (金) 00時05分

ご指摘どうもありがとうございました。

寝る前に読んで、直しておきました!!!
この舞台はご覧になりますか?

投稿: Nobby | 2012年10月 5日 (金) 09時18分

こんにちは。

「リチャード三世」、一昨日観てきました。
ユニークで親しみやすい、いい舞台だったと思います。
新国立の中劇場が満席で、ツイッターの関連つぶやきも多く、エンタメではない演劇作品としては、相当に評判になっている舞台なのかなと思いました。

昨年の暮れにロンドンでドンマー・ウェアハウスの「リチャード二世」を観てきました。本作とは違い、衣装も含めて設定時代通りの演出と思われるガチンコ歴史劇でした。英語の台詞があまり分からないので中途半端な理解でしかないのですが、舞台上を覆う厳粛で張り詰めた緊張感、俳優陣の驚異的な集中力にただただ胸を打たれました。あの舞台と同じ演出の方向性でやるとすると、どんな日本のカンパニーも及ばないだろうとすら思ってしまうほどのクオリティでした。
しかし、日本の演劇人が日本の観客に作品を届けるのだから、物語に対するいろんなアプローチがあって良いし、その限りにおいては優劣もなにもないなと思います。岡本健一のリチャード三世は評価が分かれるもののような気がしますが、少なくても彼がインタビューで語っている通りの人物像を、確信を持って演じていることが伝わってきました。

長々と語ってしまってすいません。。
余談ですが、中野の小劇場で公演中のアーサー・ミラー「橋からの眺め」が凄い良かったです!! 芝居もそうですが、何より戯曲が素晴らしい。関連する映画とか書籍を色々漁ってみようと思案中です。

投稿: johnny | 2012年10月 8日 (月) 13時11分

小川さん演出の「橋からの眺め」気になっていたんですよね〜〜。良い戯曲の良さをきちんと引き出せるのが小川さんの強み。。やっぱり観に行ってみようかな。
レポートをありがとうございます。

投稿: Nobby | 2012年10月 8日 (月) 14時33分

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